研究概要 |
愛媛県佐田岬で採集した海綿Callyspongia truncataのメタノール抽出物を溶媒分画すると,酢酸エチル可溶部及び1-ブタノール可溶部に,イトマキヒトデの受精を阻害する強い活性が認められた。まず,酢酸エチル可溶部をシリカゲルカラムクロマト分画し,化合物1を単離した。また,1-ブタノール可溶部をゲルろ過カラムクロマトで分画し,化合物2を単離した。化合物1及び2は,HRFABMS,各種2D-NMRスペクトル等から,新規なポリアセチレン硫酸エステル類であるシホノジオールの1-モノサルフェート並びにジサルフェートであると決定した。 和歌山県潮岬で採集した海綿Epipolasis kushimotoensisのメタノール抽出物を溶媒分画したところ,水可溶部にイトマキヒトデに対する受精阻害活性が認められた。水可溶部から得られた活性物質は,各種スペクトルデータから,ステロイド硫酸エステルであるハリスタノールサルフェート(3)と同定した。 化合物1〜3は,それぞれ14,9および5μMでイトマキヒトデの受精を阻害した。これらの化合物を加水分解して得たアルコール体は,イトマキヒトデに対して受精阻害活性を示さなかった。このことは,硫酸エステル構造が阻害活性の発現に必須であることを示している。また,鎖状の硫酸エステル化合物であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)と活性を比較した結果,SDSのイトマキヒトデ受精阻害活性は弱く,界面活性作用によって細胞を溶解させていることがわかった。これに対して,化合物1〜3は細胞溶解作用は示さなかったことから,疎水性部分の化学構造も阻害活性の発現に大きく関与していることが示された。一方,イトマキヒトデの受精卵にこれらの硫酸エステル化合物1〜3を加えても,受精卵の細胞分裂には影響を及ぼさなかったことから,1〜3は選択的な受精阻害剤であり,受精現象等の細胞機能の解明に有用な物質であることが明らかとなった。
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