研究概要 |
DNAポリメラーゼ類の基質結合部位に反応する光親和性標識試薬の開発を目指した。 1.dTTPアナログとしての、5-(p-(3-トリフルオロメチルジアジリン-3-イル)スチリル)-2′,3′-ジデオキシチミジン 5′-トリりん酸(TDSddUTP)を合成した。次に、鋳型・プライマーとしてポリA・オリゴdTを使用し、ヒト免疫不全ウイルス1型逆転写酵素(RT)について調べると、以下に示す成果が得られた。 2.TDSddUTPの、暗所におけるRTの阻害は、dTTPに拮抗し、dTTPに比較して180倍強い親和性を示した。dTTPの5位へのスチリル基の導入はRTに対する親和性を高めることが明らかとなった。また、DNAポリメラーゼγに対しても高い親和性を示した。 3.RTに対する光親和性標識実験を行うと、0.025mMマグネシウムイオン存在下、RTのdTTP結合部位に共有結合することが判明した。一方、4mMマグネシウムイオン存在下、TDSddUTPがプライマー3′末端に取り込まれ、光反応性オリゴデオキシヌクレオチドが生成し、光照射によって、プライマーがRTに共有結合した生成物を与えた。つまり、共存するマグネシウムイオン濃度によって、TDSddUTPは異なる挙動を示す光親和性標識試薬であることが判明した。 いずれの標識実験においても、RTの66kDのサブユニットに結合した。この結果は、RTが66kDにポリメラーゼ触媒部位を有するという知見に合致する。以上のように、TDSddUTPは、RTの基質結合部位に反応することが判明し、RTのヌクレオチド結合部位のみならずDNA(プライマー)結合部位の構造および酵素学的研究に応用可能なプローブであることが明らかとなった。この方法論は、様々なDNAポリメラーゼに拡張可能であろう。
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