研究概要 |
昨年までに、放線菌の一種の菌体抽出物から、硫安沈殿、透析、クロマトグラフィーによる精製を行うことによって、ランチオニン環を生成する酵素を単離することができた。さらに、酵素反応の基質特異性を調べた結果、本酵素の特異性はブロードであるが、基質となるペプチドにある程度の長さが必要であり、酵素反応点となるヒドロキシアミノ酸の立体配置を認識することを明らかにした。 本年度は、本酵素反応の最適化について検討を加えた。まず、反応の補酵素となるピリドキサルリン酸(PLP)の最適量について検討した結果、基質ペプチド(ナイシンプロプチド(1-22))に対してモル比で約1:1加えると、ランチオニン生成量は最大値に達し、それ以上PLPの量を増やしてもランチオニン生成量は増大しなかった。 次に、本反応は至適pHについて検討したが、pH12.1における反応が最大の変換率を与えた。これは、これまで用いてきたpH7.0での反応に比べて約15倍変換効率が良かったが、pH12.1では、酵素を加えない条件つまり非酵素反応でも、同程度のランチオニンの生成が認められた。 そこで、酵素を加えた反応と、加えない場合で、反応生成物に違い(特異性の有無)があるかを検討するために、まず、非酵素反応生成物についてアミノ酸配列分析を行った。反応混合物をHPLCで8種の生成物に分離し、各ペプチド中の未反応のCys残基をピリジルエチル化した後、得られたペプチドを自動配列分析を行った。その結果、どのペプチドからもSer,Thr残基は回収されることから、ヒドロキシアミノ酸は本非酵素反応には関与していないことが示された。また、Cys2残基ずつの組合せで回収されなかったことから、Cys残基同士でランチオニン環が形成され、非酵素反応の場合では、立体非選択的なランチオニン環形成が起こっているという結論になった。
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