β2-グリコプロテインI(β2GPI)は酸性リン脂質膜と特異的に相互作用する塩基性タンパク質である。近年、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患において、β2GPIがコファクターとして作用することが示され、構造と機能の相関が注目されている。β2GPIは5つのドメインから構成されるが、中でも第5ドメインが重要な役割を担っていることが示唆されている。β2GPIの第5ドメインを大量発現し、その構造と機能を解析した。 1.メタノール資化酵母を用いて、ヒトβ2GPI第5ドメインの大量発現系を構築した。これを用いて、15N、13Cの安定同位体を導入したドメイン5を作製した。多次元核磁気共鳴法(NMR)により、安定同位体標識したドメイン5の立体構造解析を行なった。 2.ドメイン5の構造と安定性を、円二色性、蛍光などを用いて解析した。ドメイン5は主にβシート構造から構成されるタンパク質であり、トリプトファン残基を含む。リン脂質膜との相互作用によって、タンパク質の構造は変化しないが、トリプトファン残基が埋もれることを示した。 3.大量発現したドメイン5とカルジオリピンを含むリン脂質ベシクルとの相互作用を調べ、ドメイン5がリン脂質膜に強く結合することを明らかにした。β2GPI全分子やドメイン1で得られた結果と比較検討した結果、β2GPIと脂質膜との相互作用において、ドメイン5が、特に重要な役割をしていることを明確にした。また、Lys77とThr78の間のペプチド結合が選択的に切断されることによって、結合力が大きく低下することを示した。 4. Lys77とThr78の間のペプチド結合が、プラズミンにより選択的に切断されることを明らかにした。生体内でも同様な反応が起きて、β2GPIの機能が制御されていることを示唆した。
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