組織因子の細胞外領域を構成する2つのドメインの役割に関して、幾つかの進展をみた。2つのドメイン(NドメインとCドメインとよぶ)を単離するため、両ドメイン間に凝固Xa因子の認識配列を挿入し、酵母で発現させた。精製後、本認識部位で切断し、NドメインとCドメインをカラムクロマトグラフィーで単離した。各ドメインによる凝固VIIa因子のアミダーゼ活性の増幅能を調べたところ、Nドメインには全く増幅能が認められなかったものの、Cドメインは約5%の活性が認められた。一方、両ドメインを混合後、活性を測定すると、切断前の活性にまで回復したことから、組織因子による凝固VIIa因子の合成基質に対する活性の増幅には、組織因子を構成する2つのドメインが必要であり、NおよびCドメイン単独ではその活性が極めて弱いことが判明した。 我々は既にヒト血漿中の活性型凝固VIIa因子の定量法を確立している。血漿中には総VIIa因子の0.5-1%に相当する2-4ng/mlの活性型VIIa因子が循環している。生体内に於けるVIIa因子の活性化機序を明らかにするため、各種病態下のVIIa因子量を測定したところ、冠動脈疾患や慢性脳梗塞、糖尿病で増加がみられた。糖尿病患者でもVIIa因子の増加がみられた。微量アルブミン尿を有する糖尿病患者では、更にVIIa量は上昇していた。このVIIa量の増加は内皮細胞傷害マーカーであるvon Willebrand因子レベルとも相関がみられた。即ち、糖尿病患者ではVII因子の活性化がおこっており、内皮細胞傷害を伴い外因系凝固亢進状態にあると考えられた。
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