IL-3依存性BaF3細胞由来の細胞株を用いて、Rasを介する系の活性調節機構および血球系細胞の増殖における生理機能の解析を行った。まず、IL-3刺激によるRas活性化における、グアニンヌクレオチド交換反応促進因子であるmSos1の関与を検討した。本研究では、mSos1の触媒領域を欠損したドミナント-ネガティブ変異体を誘導発現するクローンを樹立し、IL-3レセプター刺激によるRas活性化への影響を検討した。その結果、ドミナント-ネガティブmSos1変異体は、Rasとその下流で機能しているキナーゼのIL-3依存的な活性化を抑制した。従って、IL-3レセプターからのシグナル伝達系においてもmSos1が重要な機能を担っていることが示唆された。一方、IL-3刺激によってJNK1が活性化されることを見出した。さらにドミナント-ネガティブ変異型Ras(S17N)を誘導発現させるクローンを用いて、この系へのRasの関与を示した。しかし、ERK2の場合とは異なり、活性変異型Ras(G12V)のみではJNK1の活性化は認められず、第二のシグナルが必要である可能性が示唆された。さらに種々のタイプのレセプターを介するJNK1の活性化を指標として、RasとCdc42、Rac、Rhoなどの低分子量GTP結合タンパク質とのクロストークを各種変異体の一過性発現系を用いて検討した。これと関連して、Cdc42に結合するACKチロシンキナーゼの温度変化、浸透圧変化、BGF刺激に伴うチロシンリン酸化の誘導を見出した。さらに、ACKとアダプター分子Grb2との結合を明らかにし、Cdc42を介する系とレセプター型チロシンキナーゼからの系の関係について検討を加えた。
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