研究概要 |
細胞核の機能と構造を明らかにするためには、核骨格と結合するDNA領域を同定し、この結合に関与するタンパク質の分子種とその機能について解析することが重要であると考え調査を行った。まず、核骨格構造と特異的に結合するDNA(Matrix Attachment Region DNA:MAR DNA)を単離・クローン化し、これがA/T配列に富みゲノムDNA内に高頻度に反復して配列するDNA(高度反復配列DNA)であることを明らかにした。一方、上記核骨格標品中には、この反復配列DNAと親和性を示す蛋白質(P123,P130)が存在し、これらがDNAの湾曲構造、およびこれに伴うbase unpairing regionを認識して結合する性質を持つことが明らかになった。さらに、両蛋白質は共にリン酸化蛋白質であり、DNAとの結合能がチロシン残基のリン酸化に大きく依存していることが明らかになった。次に、細胞周期に伴うこれら蛋白質のリン酸化状態の解析を行い、分裂増殖期に蛋白質のリン酸化能が高まること、即ち、DNA結合活性を持つP130量が増加することを明らかにした。また、両蛋白質が細胞核に局在することを、これらに対する抗体を用いて明らかにした。続いて、両蛋白質をコードする遺伝子をラットcDNAライブラリーより単離し、そのアミノ酸配列を解析して種々の情報を得た。ホモロジー検索の結果P130は、すでに報告のあるmatrin3とほぼ同一であることが明らかとなった。さらに、モチーフ検索により、matirin3/P130は、アミノ末端側及びカルボキシル末端側の2ヶ所にZnフィンガーモチーフを配置し、さらに中央部にRNA結合ドメインを持つ分子であることが明らかになった。また、推定されるリン酸化部位が分子内に多く存在し、特にチロシンリン酸化部位がDNA結合部位と隣接していることが明らかになった。今後は、これら情報を用いて変異蛋白質や融合蛋白質を作成することにより、各機能ドメイン(転写との関連を重視したDNA結合領域やリン酸化部位および蛋白質局在化シグナルなど)の解析が可能と考えられる。一方、癌細胞の核マトリックス成分について調査を行い、細胞の癌化に関連すると考えられる核マトリックス蛋白質を同定・単離し、その諸性質について正常細胞の結果と比較・検討した。その結果、癌細胞の核マトリックス中には、matrin 3/P130と分子量が同一な成分が存在しないことから、この研究が単に核マトリックス構造を解明する基礎的な学問領域にとどまらず、臨床的癌の診断などに充分応用可能な研究計画であるとの見解を得た。従って、癌細胞特有な核マトリックス蛋白質の諸性質についてさらに詳細に調査する必要があると考えた。 以上の結果より、今後はmatrin 3/P130の機能ドメインを詳細に調査し、また、この蛋白質のin vivo での機能解析に迫る研究計画を推進することが必要であると考えた。
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