研究概要 |
高等生物は異なる機能を持つ蛋白質を発現するために、遺伝子の種類や数に頼るだけでなく単一な遺伝子からでも多様な蛋白質を創生できる機構を備えている。その一つとして択一的スプライシングがある。細胞分化に依存した択一的スプライシングがみられるNCAM(神経細胞接着分子)の筋組織特異的なエキソン(MSDb)の選択について研究してきた。本研究ではマウスの筋芽細胞C2C12,繊維芽細胞C310T1/2などを用いてMSDbエキソンの選択の調節領域を明らかにした。その結果、MSDbエキソンの下流約450bpからの100bpの領域が分化に依存した択一的スプライシングを調節していることがわかった。この領域は非筋肉細胞ではエキソン選択の抑制に働き,筋芽細胞では分化誘導に伴って選択疎外の解除が見られ、これは択一的スプライシングに関与する新規のエレメントであった。このエレメントによる疎外解除には筋分化調節転写因子であるMyoDの発現が必須であり,別の分化段階で作用する転写因子であるmyogeninとは異なる作用を示した。この調節領域に結合するRNA結合蛋白質や筋芽細胞の分化に依存して発現するRNA結合蛋白の単離を試みたが新規のものは得られなかった。また、核内の蛋白質とりわけArg/Serドメインを有するRNAドメインを有するRNA結合蛋白質であるSR蛋白質の単離を試み、分化誘導後、蛋白合成を阻害する条件下でSR蛋白質のアルギニン残基がメチル基の修飾を受けることを確認した。核内蛋白質では多くのSR蛋白質のほかにもメチル基の修飾を受ける蛋白質が見られ、細胞株による相違も認められた。SR蛋白質では翻訳後のメチル化やリン酸化などの蛋白質の修飾がみられたことから、択一的スプライシングの調節機構への関与で非常に興味深いが、個々のスプライシング反応についてin vitroで検討しなければならない。
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