本研究は、ヒト・ジヒドロリポアミド・サクシニル転移酵素の遺伝子の発現調節機構を解明することが目的である。ジヒドロリポアミド・サクシニル転移酵素はミトコンドリアに存在する。最近、私共は、組織によってはこの遺伝子にはオルタネイティブ・スプライシングがあり、複数ケのタンパクが合成され、それぞれ細胞内の局在が異なることを見出している。ジヒドロリポアミド・サクシニル転移酵素の遺伝子をヒトより単離し、その全構造を明らかにしたが、この遺伝子の発現調節領域にはTATAボックスは認められず、数ケの連続したGCボックスが存在する。典型的なハウスキーピング遺伝子である。現在、TATAボックスを持たず、GCボックスを持つ遺伝子の発現では、GCボックスに結合する転写因子SP1あるいはその関連因子が主として働く。且つ、それらの遺伝子の発現では、GCボックスを使用せず、他の転写配列を用いる例は知られていない。私共は、本遺伝子は数ケのGCボックスは所持するが、この部位は全転写活性の10%ほどしか転写には関与しないことを見出した。CAT活性測定法より、転写開始点より約60塩基上流にある塩基配列がジヒドロリポアミド・サクシニル転写酵素の遺伝子の主たる転写活性部位であることが判明した。現在のところ、この塩基配列に類似のものは報告されていない。次年度で、この部位をプローブにして、ジヒドロリポアミド・サクシニル転移酵素の遺伝子のこの配列部位に結合するタンパクのcDNAを単離し、その構造を調べる予定であるが、この転写因子の組織分布の差がジヒドロリポアミド・サクシニル転移酵素の発現の差に起因するか否かも次年度の検討課題である。
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