本研究は生体のエネルギー代謝のなかで重要な役割を果たすα-ケトグルタル酸脱水素酵素複合体の一成分酵素であるジヒドロリポアミド・サクシニル転移酵素(DLST)の遺伝子発現調節の機能解析を行ったものである。既に、私どもは、DLST遺伝子をヒトより単離、その全構造を明らかにしているが、この遺伝子の発現調節領域にはTATAボックスは認められず、数ケの連続したGCボックスが存在する。典型的なハウスキーピング遺伝子である。現在、TATAボックスを持たず、GCボックスを持つ遺伝子の発現では、GCボックスに結合する転写因子Sp1あるいはその関連因子が主として働く。且つ、それらの遺伝子の発現では、GCボックスを使用せず、他の転写配列を用いる例は知られていない。私どもは、本遺伝子は数ケのGCボックスは所持するが、この部位は全転写活性の10%ほどしか転写には関与しないことを見出した。 CAT活性測定法より、転写開始点より-35から-12の領域がDLST遺伝子の主たる転写活性部位であることが判明した。多くのハウスキーピング・ジーンはその転写活性にSp1あるいはSp1 familyが関与するが、DLSTはハウスキーピング・ジーンに属するにもかかわらず、その転写にSp1あるいはSp1 familyが関与しないことがゲルシフト解析より示された。更に、第二イントロンの+796から+964の領域には強力な転写抑制部位があることが明らかとなった。-35から-12の転写活性部位と+796から+964の領域の転写抑制部位によってDLSTの遺伝子発現は調節されているものと思われた。
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