研究概要 |
本研究は,造血系細胞の増殖における非受容体型チロシンキナーゼp72^<syk>の活性化機構とその生理的機能を解明することを目的とし、インスリン受容体が過剰発現したリンパ芽球細胞株IM9cellsにおけるインスリンおよびIGF-1刺激による非受容体型チロシンキナーゼp72^<syk>の活性制御機構について検討した。その結果、p72^<syk>がIM9cellsに存在し,InsulinおよびIGF-1刺激後共に15-30secでチロシン自己リン酸化活性が増加し,2-5min以後徐々に低下することが認められた。その活性化機構として,Insulin receptorとp72^<syk>が直接的あるいは間接的にassociateしているか否かを各種抗体を用いて解析を行った。抗syk抗体での免疫沈降物を抗インスリン抗体および抗リン酸化チロシン抗体でウエスタンブロットした結果、Insulin receptorとp72^<syk>の共沈がわずかに確認された。しかし、抗インスリン抗体での免疫沈降物の抗syk抗体でのウエスタンブロットでは共沈が検出されず、直接的なassociationを裏づける明確なデーターは得られなかった。 次にインスリン作用に類似した効果を示し、チロシンホスファターゼ阻害剤および酸化ストレス剤でもあるH_2O_2を用いてIM-9cellsを刺激し、インスリン受容体およびp72^<syk>のチロシンリン酸化を検討した。その結果、インスリン受容体およびp72^<syk>は共に1-3分で顕著なチロシンリン酸化の亢進が認められた。この条件下で、抗インスリン抗体で免疫沈降し抗リン酸化チロシン抗体でウエスタンブロットした結果、95kDaおよび72-74kDaのバンドが刺激依存性にチロシンリン酸化が確認された。更にH_2O_2刺激によるp72^<syk>のチロシンリン酸化に対するAキナーゼ活性化剤dibutyryl cAMPおよびforskolinの制御機構の解析を行った。その結果、dibutyryl cAMPで前処理した場合には、p72^<syk>のチロシンリン酸化および自己リン酸化がdose dependentに抑制されたが、forskolin前処理では、逆にp72^<syk>のチロシンリン酸化を促進させる結果が得られた。現在、それらのp72^<syk>のチロシンリン酸化に対する反応性の違いが何によるかを検討中である。 一方、造血系細胞の増殖におけるp72^<syk>の活性制御機構の研究の一環として、骨髄球系細胞におけるIL-3刺激時の非受容体型チロシンキナーゼp72^<syk>の活性化について共同研究で検討した。その結果、IL-3およびG-CSF刺激時にp72^<syk>のチロシンリン酸化が亢進することを抗リン酸化チロシン抗体で確認したと同時に、in vitro kinase assay法により、IL-3およびG-CSF刺激でp72^<syk>の自己リン酸化能の亢進も認めた。更に、免疫沈降法を用いて、p72^<syk>とIL-3受容体βサブユニットが共沈することを確認した。以上の結果から、骨髄球系培養細胞の増殖シグナルにp72^<syk>が関与していることが明らかとなった。
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