ホメオドメインは、発生、分化を担うホメオ遺伝子の産物であり、約60個のアミノ酸残基から成る遺伝子発現調節蛋白質である。その立体構造は、N末端側約10残基からなるコイル、並びにβターンで連結された3本のαヘリックスで構成され、N末端側コイルとC末端側の第3ヘリックスがDNA上の塩基配列を特異的に認識する上で中心的な役割を果たすとされている。本研究では、まずショウジョウバエの分節遺伝子産物であるengrailedホメオドメインのC末端第3ヘリックスに対応するペプチドの構造とDNAとの相互作用をラマン分光法で調べた結果、このペプチドは、DNA非存在下はβシート構造を形成するが、DNAとの相互作用により、一部αヘリックス構造へと転移することが明らかとなり、ホメオドメインのDNA認識ヘリックス形成は、DNAとの相互作用により誘起されることが示唆された。また、N末端コイル部に対応するペプチドとDNAとの相互作用を、紫外吸収、円偏光二色性、紫外共鳴ラマン分光を用いて検討した結果、N末端コイル部が結合することにより、DNA中の核酸塩基のスタッキング状態が変化することを見出した。本研究で得られた結果を総合的に判断すると、ホメオドメインのN末端部位がDNAの副溝に結合することによりDNAの構造が変化し、更に構造変化を起こしたDNAの主構部位がホメオドメインの認識ヘリックス部に作用してヘリックス構造の形成を促進することにより、塩基配列特異的なDNA-蛋白質相互作用が達成されていると考えられる。
|