現在まで、主にNMRを用い、蛋白質ゾル及びゲル等のファントムを試料として、磁化移動実験及び解析を行っている。水プロトンのオフ・レゾナンス照射分散曲線を解析することにより、生体組織内の自由水の磁化のみの情報から、固体に近い線形を有する高分子成分のスピン濃度や線幅を推定出来ることが分かった。一方、ウサギ迷走神経繊維の静止状態及び興奮状態の縦緩和時間の解析から、両状態においては高分子集合体形成量あるいは水和量に差のあることが分かった。神経細胞においては静止時と興奮時で、Tubulin等の高分子の集合状態に差があり、縦緩和時間が異なると考えられる。MTCにより、これら高分子の集合状態をイメージングすることが可能であると推測されるため、脳機能イメージングにMTCを応用した。その結果、ヒトの大脳機能部位周囲の血管はBOLD効果により描出され、MTCによりこの効果はさらに増幅されることが分かった。しかしこの効果が真にMTCを反映しているかどうかは、疑わしい。何故なら、臨床用のMRI機では、実験用のMRI機と異なり、オフ・レゾナンス照射が、人体に与える影響を考慮して、系が平衡に達する程には十分行えないからである。即ち、磁化移動現象の一過性の影響をみていることになる。一過性の磁化移動現象がどこまで高分子の集合状態を反映しうるのか、現在実験的及び理論的に考察を行っている。
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