研究概要 |
蛋白質の立体構造を、シミュレーションで理論的に研究するのは非常に難しい問題である。それは、系にエネルギー極小状態が無数に存在するために、従来の手法では、全エネルギー空間をカバーすることは不可能であることによる。よって、シミュレーションがエネルギー極小状態に留まってしまわない、新しいアルゴリズムの開発が重要となる。 我々は、数学的に蛋白質の立体構造予測と同じぐらい難しい、他の分野の問題(例えば、物理学における、スピングラスの問題)において開発された、徐冷モンテカルロ法(Monte Carlo simulated annealing)やマルチカノニカル法(multicanonical algorithms)などの新最適化アルゴリズムを適用することを提唱してきた。これまで、これらの手法の有効性を確かめるために、主に、小ペプチド系でシミュレーションを行ってきた。本年度は、まず、無極性アミノ酸(Ala,Val,Gly)のホモポリマーにおいて、マルチカノニカル法によるシミュレーションを行った。そして、αヘリックス形成傾向性やヘリックス状態と非ヘリックス状態との自由エネルギー差などの種々の熱力学量を温度の関数として求め、実験からの示唆と定性的に一致することを示した。次に、アミノ酸数56の小蛋白質において、完全にランダムな初期構造から、徐冷モンテカルロ法によるシミュレーションを行い、どこまでX線結晶解析から示唆される構造に近づけるかを調べた。この実験から示唆される構造は1本のαヘリックスと4本のβストランドからなるが、シミュレーションの結果も1本のαヘリックスと数本のβストランドからなることが多かった。ただし、現在のところ、残念ながら、それらの配置が実験結果と一致するまでには至っていない。
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