我々はこれまで、タンパク質の立体構造予測問題に、物理学の分野で開発された、徐冷モンテカルロ法やマルチカノニカル法適用することを提唱してきた。これまでは、小ペプチド系において気相中のシミュレーションを行なってきたが、タンパク質の立体構造は溶媒の効果に大きな影響を受けていることは周知のことであり、如何に溶媒の効果を計算に取り入れるかは、非常に重要な問題である。本研究では、特に、表面積に比例するエネルギー項、スケール粒子理論に基づいた疎水エネルギー項、また、RISM理論に基づいた全水和エネルギー項の3つの可能性について検討した。 表面積に比例するエネルギー項の場合、まず、良く使われている5つのパラメターの組の妥当性をMet-enkephalin及びProtein Gにおいて検討し、そのうち2つが不適であることを示した。スケール粒子理論に基づいた疎水エネルギー項の場合、Met-enkephalinにおいて、徐冷モンテカルロシミュレーションを行なった。そして、最小エネルギー構造が気相におけるそれより、伸びた構造であることを示した。NMR実験では完全に伸びた構造が示唆されている。最後に、RISM理論に基づいた全水和エネルギー項の場合、気相における最小エネルギー構造、完全に伸びた構造など6つの典型的な構造を準備して、構造エネルギーと水和エネルギーを合わせた全エネルギーを比べた結果、完全に伸びた構造が一番安定であることが示せた。これらNMR実験の結果と一致している。以上の結果を踏まえて、これら3つの場合において、それぞれ徐冷モンテカルロ法やマルチカノニカル法によるシミュレーションを始める準備が整った。
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