研究概要 |
細胞内で発生する活性酸素や環境中に存在するX線等の電離放射線は、細胞内のDNAに損傷を引き起こす。DNAは生体の一次遺伝情報を担う分子であるため、その損傷は突然変異やDNA複製阻害を引き起こし、細胞死や発癌が起こることが明かにされている。本研究では、DNA損傷のうちで最も重要な塩基損傷に注目し、これに起因するDNAのミクロ構造変化とその突然変異性・DNA合成阻害効果の関連を解析した。 1 構造解析 α-deoxyadenosin(α)およびabasic site(AP)を含む9-merオリゴヌクレオチドを合成した後、UV・CD測定を行い二重鎖の構造解析を行った。その結果、コントロールであるAPは、DNA二重鎖を不安定化しTmを著しく低下させるのに対し、αはAPに比べ不安定化の程度は小さいことが明らかとなった。αと対合する塩基がTの場合Tmは正常なA:T塩基対と同程度であるが、他の塩基の場合Tmは以下の順に減少した。A:T=α:T>α:C,α:A>α:G さらに近い構造を維持するのに対し、α:Aおよびα:Gでは二重鎖に大きな歪みが発生することが示された。以上、分光測定と分子モデリングの結果はよい一致を示し、αが重大な遺伝子障害となることが示唆された。 2 トランスファクション αおよびAPを含むオリゴヌクレオチドを組み込んだ一重鎖M13DNAのトランスフェクションを行い、損傷のin vivoにおけるDNA複製阻害効果をプラークの相対数に基づき評価した。その結果、APはDNA複製を著しく阻害するため強い致死効果を示すのに対し、αの致死効果は中程度であり、translesion bypassが起こった場合強い突然変異性を示すことが示唆された。現在、ファージDNAを単離後、損傷部位の塩基配列を分析し、in vivoにおける損傷の突然変異性の解析を行っている。
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