研究概要 |
哺乳類の細胞に於いて、タンパク質リン酸化酵素PKCδから転写因子AP1へのシグナル伝達の分子機構を明らかにするため、まずPKCδからのシグナルを受け取るタンパク質分子の同定を行った。ウエストーウエスタンスクリーニング法により同定したPKCδ結合タンパク質であるSRBCについては、その一次構造の決定及び定性を行い、1)SRBCはPKCδと結合するのみならずこれによりリン酸化されること、2)マウスNIH3T3細胞に於いて、mRNAの発現量が培養液中の血清を除去することにより誘導されること、3)SRBCを高発現させることにより細胞増殖が阻害されることを明らかにした。このことは活性型のPKCδを細胞に高発現させるとAP1が活性化するとともに細胞増殖が阻害されるという我々が以前得た知見と一見整合性のあるものである。しかしSRBCがPKCδによるAP1活性化や細胞増殖阻害に関わるものか否か、SRBCの活性はPKCδによって制御され得るものか否か等については今後の検討を要する。またこれとは別にPKCδはc-Rafを介してMAPキナーゼ(ERK)を活性化することを明らかにした。ERKは転写因子Elk-1を介してAP1の構成分子であるc-Fosの発現を誘導することが知られていることから、PKCδによるc-Raf,ERKの活性化はPKCδからAP1へのシグナル伝達において重要な位置を占めるものと考えられる。PKCδがc-Rafを活性化する分子機構が今後の検討課題となる。一方PKCδとAP1をつなぐシグナル伝達経路のAP1の側からのアプローチとして、AP1の構成分子であるc-Junをリン酸化して活性化するJNK/SAPKの活性化機構についても研究を進め、これまで機能が不明なタンパク質リン酸化酵素として認識されていたMLK関連酵素群がSEK/MKK4と呼ばれるタンパク質リン酸化酵素を介してJNK/SAPKを活性化することを明らかにした。MLK関連酵素群とPKCδとの関係については今後の検討を要する。
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