家鴨の雛に刷り込み刺激を提示2時間後、刺激を受けたものの脳MHV領域において特異的に転写が促進される遺伝子クローンを、ディファレンシャルスクリーニング法を用いていくつか分離した。そのうちのひとつであるSPM2遺伝子は、DNAの相同性の解析からshort chain alcohol dehydrogenase familyのメンバーであり、脳内でニューロステロイド合成に関与していることが示唆された。この遺伝子の哺乳類のホモログが存在するかどうかをみるため、将来の遺伝学的解析も考えてマウスを選び、脳cDNAライブラリーをスクリーニングしたところ約60%の相同性をもつ新たな遺伝子をクローン化した。 またこれとは別に、記憶・学習に関連している遺伝子の候補として家鴨脳シナプス分画に対する抗体を作製し、これを用いて得たクローンのMHVでの発現を調べたところ、刷り込みに伴って発現の増加するものがいくつか得られた。その中からシナプスの可塑性に関与する可能性をもつ遺伝子の候補として、特にシンタキシンを選び、培養細胞PC12の系を用いてシンタキシンを強制発現させたときに伝達物質放出量に影響があるかどうか調べる計画を立てた。ラットのシンタキシンIA及びBをPCRでクローン化し、PC12に導入した。現在、標識した伝達物質を定量するための条件を検討中である。 遺伝子の機能を探るため、遺伝学的手法を用いることができる動物として線虫C.elegansを選び、トランスポゾン挿入法を用い上記遺伝子の線虫の突然変異体の分離を試みる準備を進めていたが、我々のサザンハイブリダイゼーション条件ではシグナルが得られなかった。しかし、最近データベース検索によって線虫ゲノムプロジェクトによりalcohol dehydrogenase familyに属する遺伝子が多数発見され、SPM2遺伝ともホモロジーがあることがわかった。これらが神経系で発現しているか、しているならその機能は何か、非常に興味深いのでこれらの発現をまず調べてみたい。
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