本年度は、計画に従って、ヒトのベントDNA画分からプロモーター活性をもつ断片や転写に影響を及ぼす断片を単離する作業を進めた。当初、ベントDNA画分の調製法としては、昨年度検討した方法を用いた。そして、目的とする断片の単離法としては、次の2つの方法を用いた。(1)新規真核細胞プロモータートラップベクターpATOを用いる単離。(2)ルシフェラーゼアッセイ用に市販されているベーシックベクターを用いる単離。しかし、いずれのベクターを用いても、ベントDNA断片のクローン化効率が極めて低く、プロモーター等の単離には至らなかった。その原因は明らかではないが、ハイブリダイゼーションをベントDNAの分画の基礎としているため、特定の構造をとったベントDNAしか分画できず、しかも、これらの断片とベクターとの“相性"が悪かったためではないかと考えている。実際に、高次構造が障害となって、DNA断片がベクターに組み込まれにくい現象があることは、良く知られている。 そこで我々は、手間のかかる方法ではあるが、従来法を用いてベントDNA画分を新たに調製し、この画分を上述のベーシックベクターに組み込む実験を行ったところ、組み換え体を効率良く得ることができた。これまでに、ルシフェラーゼアッセイにより約700の組み換え体をスクリーニングし、プロモーター活性を示す15の断片を得た。そして、2つの断片の塩基配列をほぼ明らかにした。現在、残りのクローンの塩基配列の解析と、転写開始点およびベントDNA構造の存在位置の解析を進めている。
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