本研究では、真核細胞遺伝子のプロモーターでベントDNA構造を持つものの構造と機能の特徴を明らかにすることを目的とした。そのため、ヒト染色体DNAの消化物の中からベントDNA断片のみを選択的に収集し、その中からプロモーター活性を持つものを単離し、構造と機能の解析を行うという計画をたてた。ベントDNAの単離に関しては、ベントDNAに高選択的にハイブリタイズするビオチン化オリゴヌクレオチド(今回の研究で設計し、合成した)を用いて、ストレプトアビジンを結合した磁気ビーズ上にベントDNAを回収するという新規の方法を用いた。この方法では、一連の作業に要する時間は4〜5時間であり、最適条件では、80%以上の確率でベントDNA断片をクローン化できた。従来方では、最短でも約2日間必要であることを考えると、この方法は画期的なものといえる。さらに、繁雑な操作を一切必要としない点も長所である。しかし、このようにして得たベントDNAはプロモータートラップ用に用意した2つのベクター(新規真核細胞プロモータートラップベクターpATOおよびルシフェラーゼアッセイ用ベーシックベクター)に組み込まれにくく、目的の実験を行うことができなかった。今回用いたオリゴヌクレオチドでは、ベクターとの″相性″が悪い、特定の立体構造をとったベントDNAしか分離できなかったのかもしれない。 そこで我々は、手間のかかる方法ではあるが、従来法を用いてベントDNA画分を新たに調製し、この画分を上述のベーシックベクターに組み込む実験を行った。この方法に変えたところ、組み換え体を効率良く得ることができた。これまでに、ルシフェラーゼアッセイにより約700の組み換え体をスクリーニングし、プロモーター活性を示す15の断片を得た。そして、2つの断片の塩基配列をほぼ明らかにした。現在、残りのクローンの塩基配列の解析と、転写開始点の位置およびベントDNA構造の存在位置の解析を進めている。
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