分裂酵母の減数分裂不能な突然変異を相補するマウス遺伝子を検索して、減数分裂の制御機構が分裂酵母とマウスの間で保存されているか否かを検討した。分裂酵母のmei2は減数分裂開始および減数第一分裂を制御し、その遺伝子産物はmeiRNA(sme2遺伝子産物)と複合体を形成するRNA結合タンパク質である。mei2-197E変異株は減数分裂前DNA合成不能であり、mei2-33変異株およびsme2欠損変異株は減数分裂前DNA合成は可能だが、減数第一分裂不能である。これらの突然変異を相補するマウス遺伝子を12種類単離した。sme2を相補するクローンのひとつは新規のRNA結合タンパク質をコードし、複数の転写産物のうち1.2kbのmRNAが精巣特異的に発現していた。mei2-197Eを相補する遺伝子のひとつはDnaJファミリーに属する新規遺伝子であり、精巣で強く発現することがわかった。また、アポトーシスに関与するシステインプロテアーゼをコードするNedd2遺伝子がmei2-197E変異とmei2-33変異の両方を相補した。一方、分裂酵母のmes1遺伝子は減数第二分裂特異的に働く遺伝子である。mes1遺伝子産物は既存のタンパク質と相同性をもたず、その生化学的な活性は明らかでない。mes1を相補するマウス遺伝子を単離したところ、αチューブリン、アクチンおよびダイニンをコードする遺伝子と癌原遺伝子のc-cblが得られ、mes1遺伝子産物は減数第二分裂期における細胞骨格調節に関与することが示唆された。c-cbl遺伝子産物はN末端領域が癌原遺伝子として必須であるが、mes1の相補にはC末端領域のみが必須であり、c-cblがどのような活性によりmes1を相補するのかは不明である。これまでの解析からは、分裂酵母で明らかにされた減数分裂の制御系がマウスにおいて保存されているか否かは明らかではない。今後さらに得られた遺伝子の解析を進める予定である。
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