癌抑制遺伝子RBは、細胞の増殖を止め細胞中での過剰発現が困難だが、pRBを誘導発現させると増殖が停止するNIH3T3由来細胞系を作製した。また、血清ロット依存性が判明し、過剰発現で増殖を完全に停止させる血清とほとんど増殖に影響しない血清を捜し当てることができた。これは、条件感受性突然変異に類似しておりこの系の有用性を高めている。pRBの細胞学的機能は、細胞系、研究者によって矛盾する結果が報告されており、本実験系で細胞抽出液を生化学的に解析することなどで、矛盾点を解明していく。例えばcyclin D3、cdk4がRBの発現の影響が少ない血清中で培養したときのみに5倍程度発現上昇が見られ、この変動は、増殖を停止させる血清を用いると観察されず、この血清中でRBを発現させると、RBの効果を増強するような経路が働いていることが示唆される。大部分の生命現象の変化は、ヒトの場合約10^5個の全遺伝子中の約15%ほどしか発現していない遺伝子発現の変動に帰結されると推定される。ディファレンシャルディスプレー法は、細胞中で発現している大分部のmRNAを検出でき、実験に要するRNAも少量ですむので、多数の検体の比較性に優れ、発現量が増減する遺伝子の検索に最適である。また、そのmRNA遺伝子の生物学的意義、実用性の有無等の判別が短期間で可能で、無駄な実験を容易に省ける。RBの作用は、最終的には種々の転写因子を制御することで発揮することが推測され、ディファレンシャルディスプレー法に種々の改良を施し、再現性と効率をさらに高めた独自の改良法を、本研究のRB細胞に適用し、RBの効果の増強に働く因子の単離、解析、同定を行っている。現在、RBの機能に関係すると考えられるmRNAが検出されているので、そのcDNAの単離、解析、同定を押し進めている。
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