赤血球造血微小環境を構成する分子を探索するために、赤芽球造血支持能を持つ脾臓間質細胞株に対する単クローン抗体のなかから、I:赤芽球造血の盛んな赤脾髄特異的に発現する分子を認識するクローン11Dと、II:培養系で間質細胞依存的な赤芽球造血を阻害するクローン100.1とを用いて遺伝子のクローニングを行った。11Dを用いた大腸菌での発現スクリーニングの結果、新規膜蛋白質遺伝子SMAP-1を得た。SMAP-1蛋白質の赤芽球造血への関与を調べる目的で、間質細胞株にセンス方向とアンチセンス方向のcDNAを導入し、間質細胞のSMAP1蛋白質を量的に変動させて赤芽球造血支持能を調べたところ、アンチセンス方向導入株で赤芽球造血支持能の低下がみられ、この分子が赤芽球造血微小環境の構成要素として機能し得ることを示すことができた(投稿中)。しかしながら、この遺伝子は、間質細胞のみではなく赤芽球前駆細胞やほかの血球細胞でも発現していることがわかり、この分子のみで赤芽球造血を限定することはできないと予想された。一方、100.1を用いた発現クローニレグの結果、100.1はCD47を認識していることが分かった。CD47は、細菌の感染に対する白血球の応答に機能することが示されているが、その骨髄での発現の機能面での解析は行われていない分子で、今回の結果より、CD47が造血に際しても機能する可能性を示唆することができた。 また、赤芽球造血の場の機能分子の解析の一つとして、細胞間相互作用に影響のある遺伝子であるv-srcを導入し、赤芽球支持能を調べたところ、v-srcを高発現する細胞で接着分子のリガンドの発現低下を引き起こし赤芽球造血支持能が低下することを見いだし、造血微小環境の制御が接着分子の発現量を介して可能であることを示した(矢内ら)。 脾臓間質細胞株以外にも細胞接着を介して造血支持する間質細胞株が骨髄から樹立され、それらが赤芽球造血以外にも顆粒球、単球の造血を限定するような細胞株であることを明らかにし(亀岡ら)、間質細胞依存的な造血支持能の解析系を得た。また、これらの間質細胞株の中で造血幹細胞に作用してその分化決定に影響することを実験的に明らかにすることができた(奥山ら)。また、間質細胞株を樹立する際に用いた温度感受性SV40Tは、温度依存的に細胞の不死化に関わっていることを示すことができた(Taherら)。
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