研究概要 |
我々は主として甲状腺細胞の機能調節に関連し、プリン誘導体特にATPとアデノシンの細胞機能調節作用と情報伝達系について報告してきた。ところがこれら因子の情報伝達系と細胞増殖制御の関係はほとんど知られていない。今回は培養細胞をモデル系として細胞の増殖制御機構のなかでのATPおよびアデノシンが細胞周期のどのフェイズに作用するのか検討を行った。培養甲状腺細胞(FRTL-5)を低血清、TSH無添加で培養し、G0期に同調後インスリン存在下でTSH, ATP, アデノシン等を添加した時に起こる細胞周期の分布変化をフローサイトメーターで解析し、DNAへの放射性チミヂンの取り込み、細胞数等の変化などと比較した。更にGタンパク質の関与を確認するため、百日咳毒素処理細胞においても同様の検討を行った。1) ATPは単独で細胞周期のG1期からS期への進行を促進し、放射性チミヂンの取り込みも増加するが、TSHによるG1期からS期への進行促進を阻害し、放射性チミヂンの取り込み促進も阻害した。2)アデノシンは単独では細胞周期のどのフェイズにも影響せず、放射性チミヂンの取り込みへの影響もなかったが、TSHによるそれぞれの促進作用を阻害した。3)百日咳毒素処理によって上記に示されたATP,アデノシンの各効果は抑制された。以上の結果により、アデノシン、ATPは共におそらくGiタンパク質を介しcAMP生成に対し抑制的に作用し、TSHの増殖作用を抑制することが証明された。更にATPの単独での増殖作用にはホスホリパーゼC-Ca^<2+>系を介する可能性とGiタンパク質の関与が示唆された。
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