我々が出芽酵母から単離したGTS1遺伝子は、DNA合成非依存的に出芽に必要な細胞サイズを変化させ、出芽のタイミングを調節することから、細胞周期のリズムを調節する出芽酵母の時計遺伝子ホモログである可能性が示唆された。今回、細胞周期および細胞サイズ以外にGTS1遺伝子のコピー数の変化により影響を受ける細胞現象があるかどうかを検討した。出芽酵母の変異株は、WT(野性株)、TMpGTS1(多コピー導入株)、TMΔgts1(遺伝子破壊株)を用いた。 1)出芽酵母の熱耐性に対するGTS1遺伝子の効果。定常期にある上記3種の株の一定数を55℃で処理した後、プレートに播き生存率を求めたところ、3種の株の中でTMpGTS1が最も生存率が高く、TMΔgts1が最も低かった。同様なことを対数増殖期の細胞に対して行ったが効果はみられなかった。したがって、Gts1蛋白質は、定常期の出芽酵母細胞細胞に対して、熱耐性を上げる働きがあることが示唆された。 2)出芽酵母の分裂寿命に関する効果。出芽酵母は他の真核生物とは異なり、出芽によって増殖するので、一つの親細胞から出芽した娘細胞数をカウントすることにより、親細胞の分裂寿命を測定することができる。3種の株についてそれぞれの分裂寿命を調べたところ、TMpGTS1が最も分裂寿命が短くなった。このことはGts1蛋白質が分裂寿命に対してネガティブな効果があることを示唆している。 3)胞子形成に対する効果。胞子形成は酵母の分化と考えられる。GTS1遺伝子の胞子形成に対する効果を検討したところ、TMpGTS1で最も胞子形成率が低く、しかも胞子形成が始まるタイミングも遅いという結果が得られた。このことは、細胞の分化に対してもGts1蛋白質がネガティブな効果があることを示唆している。 以上のようにGTS1遺伝子は様々な細胞現象に影響を及ぼすことが明らかとなった。
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