正常成熟マウス精巣並びにエストロゲン処理精巣について生殖細胞死の出現を電子顕微鏡とin situ nick translation及びTUNEL法により検討した結果、正常精巣では特に生殖上皮周期のstage XIIの精原細胞と精母細胞でアポトーシスによる細胞死が生じること、また-estradiol-3-benzoateを5日毎に投与(30μg/head)した精巣では60日辺りから顕著な生殖細胞死が認められ、それらもやはりアポートシス性であった。このアポートシスの誘導機構としてFas/Fasリガンド系の関与を検討するため、northern blot法や非放射性in situ hybridization並びにそれらの合成ペプチドに対する自作のポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学によりそれぞれのmRNA並びに蛋白発現を調べたところ、正常精巣での生殖細胞アポトーシスにはFas/Fasリガンド系は関連しないがエストロゲン精巣での誘導されたアポートシスへの密接な関与が見い出された。この際、Fasは生殖細胞にFasリガンドはSertoli細胞に発現が誘導されていた。更に、種々の抗ガン剤で誘導される生殖細胞死もTUNEL陽性で、Fas系の関与が示唆された。一方、胎児期及び新生仔での生殖細胞死を検討したところ、胎生13日と生後10日に顕著なアポートシスが観察され、更に周産期あたりでネクローシスが観察されたが、Fas系の関与は明かでは無かった。またFasを遺伝的に欠損するlpr/lprマウスやFasリガンドを欠損するgld/gldマウスでも自然発生的な生殖細胞アポートシスが観察された。以上の結果は、生殖細胞のアポートシスは何らかの障害要因によって誘導され、その際にはFas/Fasリガンド系が関与する可能性を示している。
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