本研究の目的は、性フェロモンによるカルシウムシグナルの発生と受容伝達の分子機構を明らかにすることである。前年度までに、Ca^<2+>の流入に欠損を持つmid1変異株、およびCa^<2+>シグナルの受容または伝達に欠損をもつと予想されるmid2変異株とmid5変異株の分子遺伝学的解析を行った。本年度は、mid2変異株とmid5変異株に関してさらに研究を深め、次の研究成果を得た。まず、MID2遺伝子はCa^<2+>結合領域と予想される領域を含むタンパク質をコードするが、この領域が実際Ca^<2+>を結合することをステインズ・オールを用いた分光学的方法で明らかにした。さらに、この領域が細胞内で機能しているかどうかを、その領域にアミノ酸置換を導入するin vitro mutagenesis法で調べた。その結果、アミノ酸置換を受けた変異Mid2タンパク質はCa^<2+>結合能が低くなり、それを発現している変異株はmid2変異株と似た表現型を示すことを明らかにした。これらの結果は、Mid2タンパク質がカルシウムシグナルの受容伝達に重要であることを示唆している。一方、MID5遺伝子は、PKC1→BCK1→MKK1&2→MPK1→RLM1というMAPキナーゼカスケードを構成するBCK1遺伝子と同一であることを昨年度明らかにしている。このカスケードは、細胞の対数増殖期ではたらくことが既に証明されているが、性フェロモンによるシグナルの伝達経路ではたらいているか否かは不明であった。今回、分子遺伝学的に解析した結果、PKC1→BCK1→MKK1&2→MPK1までは性フェロモンのシグナル伝達が伝達されるが、RLM1にはほとんど伝わらないことを明らかにした。この結果は、性フェロモンのシグナル伝達経路ではMPK1(=MAPキナーゼ)の下流にはRLM1とは別のタンパク質が機能していることを示唆している。
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