アクチン結合蛋白質コフィリンは、pHに依存してアクチン線維を切断する、分子量約2万の蛋白質である。我々は、コフィリンの細胞内機能の解明をめざして、分子遺伝学的解析が容易な出芽酵母よりコフィリン遺伝子COF1をクローニングした。COF1は、酵母細胞の増殖に必須な遺伝子であった。そこで、in vitro mutagenesisにより、高温感受性コフィリン遺伝子cofl-1を作成した。つぎに、染色体上のCOF1をcof1-1で置き換えた変異株の高温での増殖を可能にする活性を指標として、出芽酵母の遺伝子ライブラリーより、cofl-1のマルチコピーサプレッサーSCF1をクローニングした。データベースを検索した結果、SCF1は、出芽酵母のtwo hybrid systemを用いアクチンと結合する蛋白質としてスクリーニングされたAIP1と同一の遺伝子であった。遺伝子破壊株の四分子解析の結果、SCF1は必須遺伝子ではなかったが、cof1-1とSCF1の破壊は合成致死となった。この結果は、コフィリンの機能が不完全な状況では、Scf1/Aipl蛋白質の機能が重要であることを示唆している。Scfl/Aipl蛋白質は、615アミノ酸からなり、三量体G蛋白質のベータサブユニットに代表される一群の蛋白質に存在するWD40リピートを7個有している。Scfl/Aipl蛋白質の細胞内機能を明らかにするために、大腸菌で合成したScflpをウサギに免疫して抗Scflp抗体を得た。この抗体を用いて出芽酵母を蛍光抗体染色したところ、コフィリンと同様に、出芽部位のアクチンパッチが染色された。しかし、酵母から精製したScfl/Aipl蛋白質は、in vitroでは、コフィリンの有無にかかわらずアクチン線維にほとんど結合せず、また、アクチン線維を切断する活性も示さなかった。そこで、in vivoでは他の蛋白質を介してアクチン繊維に作用しているのではないかと思われる。今後、さらに解析を進め、コフィリンとScflpを含む関連蛋白質の細胞内機能を明らかにしたい。
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