(1) センチニクバエ成虫原基in vitro再生系における位置情報の復元 センチニクバエの成虫原基を切除した後、低濃度(2.5×10^<-8>M)のエクダイソン存在下でin vitro培養すると、切除した部分が再生する。本研究では、成虫原基の形態形成において位置情報を担うwingless遺伝子のホモログをセンチニクバエから単離しwingless遺伝子の発現部位を切除した成虫原基をin vitroで再生させた際に、遺伝子発現が回復するか否か検討した。その結果、再生部位に限局してwingless遺伝子が発現した。このことは、エクダイソン存在下で起きる成虫原基の再生が、位置情報の回復を伴い、in vivoにおける再生と等価なものであることをしている。 (2) ワモンゴキブリの肢再生芽に局在するレクチンの構造と遺伝子発現 ワモンゴキブリの肢の再生では2種類の体液性レクチン(26-kDaレクチン、regenectin)が一過的に組織特異的に局在する。このうち、26-kDaレクチンは再生中期に再生肢の上皮組織の周囲に、regenectinは再生後期に筋細胞の周囲に局在する。 本研究ではこれらのレクチンのcDNAを単離し、一次構造を決定した。その結果、これらのレクチンは、構造的にはCa^<2+>要求性のC-タイプレクチンに属し、互いに約50%のアミノ酸配列の相同性を示すことが明らかになった。従って、ワモンゴキブリの肢の再生では同族のレクチンが役割分担して形態形成に働くものと考えられる。また、regenectin遺伝子は肢の再生時に再生上皮組織で一過的に発現することが示された。このことは、regenectinが再生芽の上皮組織で合成、分泌されて筋組織の形成に働くパラクライン因子であることを示唆している。 以上、本研究は昆虫の再生に働く分子(エクダイソン、C-タイプレクチン)を同定した最初の例であり、器官再生機構を理解する上で重要な知見である。
|