ショウジョウバエの後腸は9つの組織区画から構成されている。筆者らは後腸の9つの区画全てで発現する遺伝子aproctous(apro)をエンハンサートラップ法によるスクリーニングで発見した。apro遺伝子が欠損した突然変異胚では後腸が形成されない。本研究では、apro遺伝子の後腸発生における働きを明らかにすることを目的として、apro遺伝子のクローニング、及び、apro遺伝子と他の後腸特異的な遺伝子との相互作用の発生遺伝学的解析を行い、以下に述べる成果を得た。1)apro遺伝子cDNAのクローニングを行い、塩基配列を調べた結果、apro遺伝子には脊椎動物の脊索や、中胚葉の決定に関与するブラキウリ遺伝子(T)と極めて高い相同性を示す配列が含まれており、さらに、ショウジョウバエで最近報告されたTrg遺伝子(Kispertら、1994)と同一であることがわかった。ブラキウリ遺伝子と相同性の高い領域はTドメインと呼ばれるDNA結合モチーフをコードする配列に対応しており、apro/Trg遺伝子産物は転写因子であると考えられる。2)apro遺伝子の発現制御機構を明らかにするため、apro遺伝子の発現領域と重複または隣接して発現する転写因子の突然変異体でapro遺伝子の発現の変化を解析した。その結果、aproの発現はギャップ遺伝子tllによって引き起こされ、同じくギャップ遺伝子であるhkbの抑制を受ける結果、発現が胞胚10-15%ELの領域に設定されることが明らかとなった。hkb突然変異ではaproの発現領域が後方に拡大し、その領域が後腸様の形態に変化することから、aproは後腸領域を決定するマスター遺伝子的な働きを持つと予想される。
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