研究概要 |
我々は主要組織適合性抗原遺伝子群(MHC)のクラスIII領域の構造解析を行っている際に、細胞外マトリックスタンパク質・テネイシン(テネイシンC,TNC)と構造上の類似性の高いタンパク質(テネイシンX,TNX)の遺伝子を見いだして以来、テネイシンファミリーの生体内機能の解析及び分子進化学的研究を行ってきた。 本研究費の御支援により主に以下の3点を明らかにすることができた。一つ目は癌化悪性化に伴ってのTNXの発現パターンについてで、TNXとTNCの発現パターンを神経膠腫において調べた。TNCの発現は悪性度が高くなるにつれ発現が血管周囲に増し、一方TNXは悪性度が高くなるにつれ発現が血管周囲において減少し、TNXとTNCは相補的な発現パターンを示すことが明らかとなった。二つ目はTNXの発現制御機構についてで、TNCとTNXの発現制御機構の相異点を明らかにする目的でTNCの発現を誘導又は抑制する因子を用いTNXの発現を調べた。その中でglucocorticoidにTNX発現抑制作用を見いだした。またTNXのinvivo系での発現制御機構を癌細胞の浸潤時において調べた。癌細胞をヌードマウスに移植し、癌細胞及び周りの宿主由来の間質におけるTNXの発現様式の変化を調べたところ、TNXの発現は癌細胞及び周辺の間質において抑制されることが明らかとなった。以上のことよりTNXとTNCの発現制御機構は異なることが明らかとなった。三つ目はTNX遺伝子座の分子進化・ゲノム進化的学的解析で、全長67,977bpに及ぶマウスTNX遺伝子座の全塩基配列の決定を行った。さらにcDNAライブラリーのスクリーニングやRT-PCRによりマウスTNX遺伝子の全領域をカバーするcDNAクローンを得、解析を行った。その結果マウスTNXは4,114アミノ酸残基より成り立ち、数種のオルタナティブスプライシング産物の存在を明らかにした。
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