ネコの下顎領域(下唇・歯肉、下顎皮膚、頬部粘膜)の血管および臼歯腺の神経支配様式を明らかにする目的で、Whole mount acetylthiocholinesterase(WATChE)組織化学を用い、実体顕微鏡下に微細解剖を行った。また、これらの領域に西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)とHRP標識小麦胚芽凝集レクチン(WGA-HRP)の混合液を注入し、下唇・歯肉、下顎皮膚、頬部粘膜の血管および臼歯腺に分布する自律神経性および感覚性神経線維の起始細胞の局在を調査した。WATChE組織化学標本において、耳神経節から出る細いWATChE陽性根が下顎神経の各枝に合流するのが観察された。オトガイ神経が下唇・歯肉前半部およびオトガイ皮膚に、頬神経からの小枝が下唇・歯肉後半部、下顎皮膚、頬粘膜および臼歯腺に、また顎舌骨筋神経皮枝からの小枝が下顎下部の皮膚と臼歯腺後部に分布するのが観察された。下唇・歯肉、下顎皮下、臼歯腺へのHRP/WGA-HRP注入実験では、耳神経筋、上頸神経筋、三叉神経筋にきわめて多数の逆行性標識細胞が観察された。頬部粘膜への酵素注入実験では、上述の神経節の他に翼口蓋神経節とその副神経節にも標識細胞が観察された。すべての実験例において、顎下神経節、節状神経節に標識細胞は出現しなかった。以上から、ネコの下唇・歯肉前半部およびオトガイ皮膚の血管はオトガイ神経を経由して耳神経節から副交感性節後線維を、上頸神経節から交感性後線維を、また三叉神経節から感覚性神経線維を受けていると考えられた。下唇・歯肉後半部、下顎皮膚の血管および臼歯腺は頬神経経由と顎舌骨筋神経皮枝を経由して同様の神経支配を受けるものと考えられた。頬粘膜血管は頬神経を経由して同様の支配を受ける他に、翼口蓋神経節による副交感性神経支配も受けていると考えられた。
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