研究概要 |
胎生期における感染あるいは薬物投与は脳形成に大きな影響を及ぼす。大脳皮質や基底核の神経細胞の発育を障害する要因には細胞死,つまりアポトーシスの関与が予想される。 感染実験ではトキソプラズマを妊娠5日の親マウスの腹腔内に接種し,胎齢18日の胎仔大脳についてHE染色で皮質構築を観察し,PCNA免疫染色で神経細胞の増殖能を,β-tubulin免疫染色で神経細胞の分化度を,さらにTUNEL法でアポトーシス細胞を検索した。その結果,実験群の大脳壁の厚さは対照群に比べて菲薄であり,かつ皮質構造も不完全であった。脳室層のPCNA標識率は対照群より高値を示し,中間層と皮質板にはβ-tubulin陽性の細胞突起が散見された。TUNEL法で標識される細胞核は脳室下層と中間層にごく少数認められた。 トキソプラズマ感染による胎齢18日の大脳皮質は,脳室層で細胞増殖能が高いが神経細胞の分化度が低いので,低形成の状態であるといえる。細胞核のDNA断片を標識するTUNEL法でのアポトーシスの観察では対照群,実験群ともに陽性細胞核が能質下層および中間層に認められ、実験群ではより頻度が高かった。Migheliらの研究では胎齢16日のマウスの神経系では後根神経節および脊髄にアポトーシスがみられたが,大脳皮質にはみられなかったと報告している。われわれの結果から胎齢および大脳の局在によりアポトーシスの進展に差があると推察される。現在のところ,アポトーシスと大脳低形成の因果関係について明確な結論には至らないが,今後,胎齢16日の胎仔脳についてもTUNEL法を行い,対照群と比較して経時的な推計学的有意性を検討したい。さらに,薬物投与の胎仔脳についてもアポトーシスおよびその関連遺伝子,例えばp53やbcl-2などの関与の可能性を検索していく予定である。
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