研究概要 |
[目的]実験的トキソプラズマ感染によって引き起こされる胎仔脳の主な変化は大脳皮質低形成である。本研究では,その形成機序を究明するためにTUNEL法を行ってアポトーシスの関与について検討した。 [対象と方法]トキソプラズマ(ME49株)を妊娠5日のマウス(C57BL/6CrSlc)の腹腔内に接種し,親マウスから得た胎齢16日の胎仔5頭および同18日の16頭を用いた。対照群は生理的食塩水のみを接種した親マウスから得たそれぞれ同数の胎仔である。ホルマリン固定した胎仔脳をパラフィン切片に作成し,GavrieliらによるTUNEL(in situ end labeling)法を行った。側脳室前角を通る断面における前頭葉皮質の全域で核が染色された細胞(陽性細胞)数を算出し,実験群と対照群を比較したのち,その有意性をt検定で評価した。 [結果]TUNEL法で染色された核は縮小化し,輪郭が不整であり,HE染色でみられるクロマチンが濃縮した核に相当した。陽性細胞はいずれの群でも大脳皮質の脳室下層から中間層にかけて極めてわずかに散見される程度であり,脳室壁や皮質板には全く観察されなかった。 各群の陽性細胞数は,胎齢16日の平均値は実験群が0.60【+-】0.49,対照群が0.80【+-】0.98であり,胎齢18日では実験群が1.00【+-】1.66,対照群が1.56【+-】1.27であった。これらの数値は予想に反して,むしろ実験群に低く,t検定では胎齢16,18日ともに両群に有意差は認められなかった(それぞれp=0.7245,p=0.3057)。 [考察と結論]中枢神経系の正常発生におけるプログラム細胞死は孵卵6-10日のニワトリ胚の脊髄前角で報告されている。トキソプラズマ感染による大脳皮質低形成の要因の一つとしてアポトーシスの亢進が推定されたが,TUNEL法による胎齢16日および18日の検討では有意性を認めるには至らなかった。今後,他のアポトーシス関連因子についても検討を行いたい。 胎生期における感染あるいは薬物投与は脳形成に大きな影響を及ぼす。大脳皮質や基底核の神経細胞の発育を障害する要因には細胞死,つまりアポトーシスの関与が予想される。
|