これまで視床背内側核(以下、MD核)から前頭前野皮質への投射線維終末は、少なくとも第III層および第V・VI層錐体細胞に終わることを明らかにした。その際、それら錐体細胞上に対称性シナプス、すなわち抑制性シナプスを確認しており、この抑制性入力が前頭前野-MD核間の神経回路を調節、統御していると考えられる。今回は、前頭前野に広く分布し、抑制性入力と考えられる腹側被蓋野の上記回路網への関与を検討した。MD核神経終末は、MD核のイボテン酸による破壊で順行性軸索変性させて標識し、一方、腹側被蓋野からの神経終末は、順行性トレーサーで標識した。そして、これら両領域からの神経終末の前頭前野錐体細胞への分布、密度を検索するために第V層錐体細胞を無作為に選択し、この頂上樹状突起の電顕連続切片を作成し、観察した。その結果、MD核からの神経終末は、主に第III層内の頂上樹状突起の棘に終り、すべて非対称性シナプスを形成していた。しかし、腹側被蓋野からの線維終末が形成するシナプスは、多くは対称性を示し、非対称性を示すものは少なかった。その分布領域は、MD核神経終末よりも近位の頂上樹状突起に多くの存在を認めた。従って、腹側被蓋野から前頭前野第V層錐体細胞への入力は、興奮性として作用すると同時に、多くは抑制性入力として分布することが示唆された。さらに、一つの第V層錐体細胞にMD核ならびに腹側被蓋野からの投射線維終末が収斂してシナプスを形成する所見を得たのは初めてのことである。 研究代表者は、先に、MD核神経終末とMD核に線維を送っている前頭前野皮質深層錐体細胞が単シナプス結合していることを証明した。この所見と今回の結果から、MD核と前頭前野皮質の間に認められる深層錐体細胞を介する興奮性単シナプス性フィードバック・ループは、腹側被蓋野に起源する抑制性入力によって制御、調節されていることが示唆された。
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