シナプスにおける伝達物質放出はシナプス小胞とシナプス前膜の融合とそれに続く開口分泌によって起こる。私達を含めて世界のいくつかのグループの最近の研究によってこの過程に直接関与する蛋白質複合体(融合複合体)が同定された。しかし、この複合体の構成蛋白質(syntaxin 1、VAMP/synaptobrevin、SNAP-25、rab3A、synaptotagmin、NSF、SNAPs)間の相互作用とCa2+によるその変化についてはほとんどわかっていない。 本研究において私達はこの複合体の成分として私達自身が発見した19a蛋白質を追究し、その本体を明らかにした。単クローン抗体SPM-1を用いて融合複合体を精製し、電気泳動によって19a成分を単離した後、CNBr分解した。得られたペプチドを電気泳動にて分離し、蛋白質シークエンサーによってその部分アミノ酸配列を決定した。PCRによって得られたこの配列に対するヌクレオチドをプローブにしてウシ脳cDNA libraryをスクリーニングし、19a蛋白質に対するcDNAをクローニングした。19a蛋白質(synaphinと命名)は従来知られていなかった新規蛋白質で、グルタミン酸とリジンに富み、膜貫通部位等の疎水性部位は全く存在しない。上記の部分アミノ酸配列に対するペプチドを合成して、19a蛋白質に対する抗体を作製した。この抗体を用いたイムノブロットによる解析の結果、この蛋白質はほとんどが、細胞質に存在すること、また、神経系に局在することが判明した。したがって、synaphinは融合複合体に結合およびそこから解離すると推測される。ラット脳のcDNA libraryの解析により、一次構造が互いにきわめてにているsynaphinlと2が同定された。これらは異なった遺伝子を由来するものと考えられる。現在、この2種の蛋白質と融合複合体の他の成分との相互作用を詳細に検討中である。
|