乳癌に随伴して亜急性感覚性neuropathyを発症した患者(H.T)の血清中より見つかった抗体(HT抗体)が乳癌組織と中枢神経系組織とに局在する新しい共通抗原(HT抗原、130kDa)を認識する事を見出し、この抗原の同定を進めている。cDNAクローニングのためにまずHT抗原蛋白質の精製を試みた。 1 HT抗原は、容易に可溶化される成分と可溶化されにくい成分とから構成されていた。 2 免疫染色でHT抗原の存在が確認されたラット小脳のhomogenateを分画していくと、HT抗原はシナプトソームの画分に分画されたが、さらに分画を進めてシナプス膜にするとその量が激減した。したがって、HT抗原はシナプスに局在するが、膜構成蛋白質ではないと考えられた。 3 小脳のhomogenateからHT抗体(IgG)でHT抗原を免疫沈降すると、単一の蛋白質(130kDa)が得られたので、HT抗原はin vivoで他の蛋白質とコンプレックスを形成している可能性は非常に低い。 これらの結果から、HT抗原はシナプスに存在し、peripheral membrane proteinsの一種であることが示唆された。Peripheral membrane proteinsのなかでHT抗原と類似の分子量を示すタンパク質にamphiphysin(75kDaであるがSDS-PAGE上では128kDaのように挙動する)が存在する。Amphiphysinは自己免疫疾患であるStiff-Man syndrome(SMS)の患者のうち、乳癌を伴う患者の血清中にのみ見いだされる自己抗体が認識する抗原で、1993年に同定された。しかし、SMS患者血清中の抗体は乳癌組織を認識しないので、amphiphysinが腫瘍随伴症候群の抗原となり得るのかどうかは、現時点では不明である。HT抗原がamphiphysinであるのかどうか次年度で同定する予定である。
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