乳癌に随伴して亜急性感覚性neuropathyを発症した患者(H.T.)血清中の自己抗体が、130kDaの神経特異的タンパク質を認識することを見いだした。自己の乳癌組織でも同じ分子量のタンパク質を認識したので、このタンパク質は腫瘍随伴症候群の新しい共通抗原と考えられる。こ抗原タンパク質(HT抗原)はシナプスに局在し、シナプス小胞に軽くassociateして存在していることが、細胞分画、免疫組織化学および免疫電顕で明らかになった。この結果からHT抗原はシナプス小胞のリサイクルに関与しているamphiphysin(peripheral membrane proteinsのひとつ)である可能性が強く示唆された。AmphiphysinはStiff-Man Syndrome(自己免疫疾患)の患者のうち、乳癌を伴う患者血清中の自己抗体が認識する抗原であることが1993年に見いだされている。そこでHT抗原がamphiphysinであるかどうかを同定するために、ヒトamphiphysinのcDNAフラグメントをin vitroで発現させ、HT抗体が発現タンパク質を認識するかどうかをウェスタンブロットで調べた(エール大学のPietro De Camilliとの共同研究。彼らはヒトamphiphysinのcDNAをクローニングした)。HT抗体はamphiphysinのC-terminalフラグメントを認識したので、HT抗原がamphiphysinであることが確実になった。AmphiphysinのcDNAは最近ニワトリでもクローニングされ、全長の塩基配列が発表されているので、ヒトおよびニワトリのamphiphysin cDNAの塩基配列を参考にして、ラット脳幹のcDNAライブラリーからPCRでラットamphiphysinのcDNAをクローニングした。全長はまだカバーしていないが塩基配列を決定したところ、ヒトのamphiphysincDNAと高いホモロジーをした。さらにヒトおよびラットの網膜では、130kDa以外に分子量の異なる数種のタンパク質がHT抗体により認識されることをウェスタンブロットで見いだした。従ってamphiphysinにはアイソフォームが存在する可能性が考えられ、現在検索中である。
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