脳などの神経組織でニューロンが多様な分化を行なうメカニズムにおいて、神経系分化制御を担う転写因子のネットワークが重要な役割を果たしていると思われる.本研究の目的は、神経系の分化の記載が充実している線虫C.elegansをモデル生物とし、代表的な神経分化制御を行っている転写因子UNC-86蛋白質が転写制御している下流遺伝子群を単離し、神経系の分化と機能発現における役割を明らかにすることである.標的遺伝子候補の単離の方法としては、KinzlerとVogelsteinによるWhole Genome PCR法を用いた.現在までに、塩基配列決定により、115個の独立したクローンDNA断片が同定されている.これまでにこれらの塩基配列を用いてGenBankに登録されたC.elegansゲノムシークエンスの検索を行い、10種のユニークな部位を同定した.推定されるコード領域と比較し、得られたDNA断片が遺伝子発現制御領域である可能性のあるものが7種あった.このうちの2種について5'隣接領域とペプチドコード領域の一部を含むDNA断片をPCRによりクローン化し、lacZ融合遺伝子を作成した後、C.elegansトランスジェニック動物での発現パターンを観察した.1つはサブセットの核に発現していると思われ、ニューロンの前駆細胞の可能性を考えている.もう一方は発現を証明することができなかった.これは、用いた5'隣接領域のDNAが発現のために充分な情報を持っていなかったことが想像される.今後、これらの候補遺伝子に関して、より大きなDNA断片を用いて発現解析を行う予定である.また、標的遺伝子であることが確認されたものについては変異体の分離と表現型の解析によりその遺伝子機能を推定する.
|