脳由来神経栄養因子(BDNF)およびニューロトロフィン-3(NT-3)の酵素免疫測定系を確立し、これらの系が、ヒト組み換えBDNFおよびNT-3と同一の分子量を持つ組織タンパクのみを認識することを明らかにした。そこで、次に、この系を用いて、BDNFおよびNT-3の生体分布、細胞局在、脳の発達および加齢に伴う変化等を調べた。 1 生後30日齢のラット脳のNT-3は、海馬および中融野嗅球、大脳皮質、小脳、視床下部で検出された。一方、BDNFは、脳のすべての部位に検出された。いずれも海馬の濃度がもっとも高く、mRNAの結果と一致したが、NT-3の濃度はBDNFの5倍程高かった。末梢組織のNT-3は、迷走神経の標的細胞に高かったが、BDNFの存在する末梢組織は少なく、きわめて低濃度であった。 2 BDNF濃度は、脳の生後発達に伴いすべての部位で増加したが、小脳および大脳皮質のNT-3は急激に減少した。BDNFは大人で作用し、NT-3は胎生期および幼若期にその作用があるといわれている。BDNFおよびNT-3の濃度変化はこの考えを支持するさらに、小脳の顆粒細胞の分裂を制御するという考えも支持する結果である。 3 免疫組織化学的検索から、NT-3は海馬の錐体細胞層CA2-CA4の神経細胞に局在し、BDNFは海馬歯状回の顆粒細胞の核に顆粒状に局在した。ニューロトロフィンはその受容体に結合し細胞内に情報を伝達すると考えられており、核におけるBDNFの存在は意外である。核にあるBDNFの機能については今後の課題となろう。
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