ラットのmilk-ejection reflexの際には、多数の仔ラットが母ラットの乳首を吸うと、その刺激に応じて、オキシトシン細胞が数秒間の高頻度発射(burst発射)を周期的に起こすようになる。このburst発射は全てのオキシトシン細胞に同期して起こり、その後に、オキシトシンのパルス状分泌とmilk-ejectionが続く。本研究は、オキシトシン細胞にこのburst発射を起こさせる神経機序を解明するための基礎的研究である。研究はin vivoの実験とin vitroの実験からなり、まず、in vivoの実験では、左右の乳首からオキシトシン細胞までの求心路の何処で、乳首から上行して来る信号の統御が行われ、オキシトシン細胞に同期したburst発射を引き起こすのかについて検討した。中脳の半側切断、あるいは、左右半側の乳首のみを刺激する方法で、視床下部の半側のみに乳首からの求心性信号が入るようにしても、左右両側の視索上核にあるオキシトシン細胞に同期したburst発射が起こるが、そのburst発射の振幅は、求心性入力が入った側の視床下部で常に大きかった。この事実は、左右の視床下部に、それぞれ別個に片側乳腺から上行する信号を加算する機構があり、そこからの出力は主として同側のオキシトシン細胞に送られ、一部は反対側の加算機構を通して、反対側のオキシトシン細胞にも送られていることが示唆された。次に、視床下部における信号の交差部位を探るために、視床下部の前部と後部とに分けて左右離断を行い、片側乳腺刺激に対するオキシトシン細胞の反応を検討したが、その交差は散在性に行われていることが示唆された。in vitroの実験は、オキシトシン細胞自身にburst発射を起こす性質があるかどうかを探るために計画されたが、本研究の期間内に期待された成果を得るに至らなかった。
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