サルに、注視と記憶誘導性眼球運動を組み合わせた3種類の遅延反応課題を学習させた。サルは、まずモニターの中央に呈示される注視点を注視する。注視開始1秒後に、予め設定した8ヶ所の目標位置の1ヶ所または2ヶ所に短時間視覚刺激を呈示する(手がかり期)。刺激が消えた後、3〜6秒の遅延期に入る。サルは手がかり期、遅延期を通じて注視点を注視しなければならない。遅延期が終了すると注視点が消え、先に呈示された1〜2ヶ所の刺激呈示位置まで、0.5秒以内に眼球運動をすると、サルは報酬をもらえる。第1課題は、2つの刺激呈示位置と呈示順序の記憶を必要とする課題で、手がかり期に2ヶ所の目標位置を順次呈示し、遅延後それぞれの目標位置まで呈示された順に眼球運動を行うと報酬が得られる。第2課題は、刺激の呈示順序のみの記憶を必要とする課題で、手がかり期に2ヶ所の目標位置を順次呈示し、遅延期間中もこれらの刺激を呈示し続け、遅延終了後2ヶ所の目標位置へ呈示された順に眼球運動をすると報酬が得られる。第3課題は、1つの刺激呈示位置の記憶のみを必要とする課題で、1ヶ所に手がかり刺激を呈示し、遅延後その位置に眼球運動を行うと報酬が得られる。 3頭のサルに上記の課題を学習させ、前頭連合野より290個の単一ニューロン活動を記録した。本年度は、まず第3課題での各ニューロンの活動の分析により各ニューロンの機能的特徴を明らかにし、それをもとに第1および第2課題での活動を比較し、複数情報の保持ならびに処理機構を考察しようと計画した。このうち、82個のニューロンが遅延期間活動を示し、うち23個は情報に選択性のないomni-directionalな活動を、59個が保持情報に選択性のあるdirectionalな活動を示した。directionalな活動を示したニューロンの選択性の特徴を、最大応答方向、チューニング曲線の高さや幅などから決定し、個々のニューロンの記憶受容野を求めた。次年度は、このデータをもとに、記憶受容野の内外に呈示される第2刺激によりニューロンの記憶受容野がどのような影響を受けるのか、呈示される順序によりどのような影響を受けるのかを明らかにし、複数情報の保持や処理機構を明らかにしてゆく予定である。
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