体内のナトリウムが欠乏すると、動物は食塩を多量に含んだ飲食物を積極的に探索し、これを摂取する。本研究では、この食塩欲求行動に脳のどの部位のどのような神経伝達物質が関与しているのかを調べるために、ラットにナトリウム利尿剤(フロセミド)を投与して急性的に食塩欠乏状態を誘発し、マイクロダイアリシス法により大脳皮質味覚野のアセチルコリンレベルを測定した。対照群として、無処置の動物においても同様に皮質味覚野のアセチルコリンを測定した。また、動物が味刺激に対してどのような行動反応を示すかを調べるために、味刺激前後の行動を逐次ビデオ記録し、摂取、嫌悪、中立の各反応数を定量的に計数した。 通常、動物が摂取を拒否する高濃度の食塩水(0.5M)を口腔内カニューレを通じて与えたところ、食塩欠乏動物は積極的な摂取反応を示したが、対照群では摂取反応はほとんど出現せず、むしろ嫌悪反応が認められた。食塩水刺激時には両群とも皮質味覚野のアセチルコリンレベルは、刺激前に比べて有意に増加した。食塩欠乏動物では、対照動物に比べてアセチルコリンの増加率が有意に高く、増加の持続時間も有意に長かった。また、食塩欠乏動物では、食塩水刺激後の摂取反応量と皮質アセチルコリンレベルに高い相関がみられた。これらの結果から、食塩欲求行動の発現には大脳皮質味覚野のアセチルコリンが関与することが示唆された。皮質味覚野は、味覚伝導路のなかでも特定の伝達物質の存在が同定されている数少ない部位であることから、本研究ではこの部位のアセチルコリンに着目して解析したが、今後、味覚経路以外の脳部位においても、この行動に関与する伝達物質の動態を明らかにしていく必要がある。
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