幼児の言葉習得とトリの歌の習得は親の発声を学習することによってできる。これは「鋳型」説によって説明される。このことは行動生物学的に明らかにされたもので、脳神経レベルではまだ一部しか解明されていない。本研究は1.鳴鳥であるジュウシマツやキンカチョウを材料として発声中枢の各核の歌形成に関する役割を明らかにすること、2.ニホンウズラの地鳴きの中枢を明らかにすることを目的とする。方法として、歌や鳴きを音響学的に解析しながら、鳴鳥では発声中枢のHVc核とRA核の破壊を、またニホンウズラでは幼鳥における地鳴きの破壊と電気刺激を行うことによって、各中枢の神経核の機能と形態を神経行動学的に解析した。 (1)ジュウシマツとキンカチョウの発声中枢HVc核の両側と片側を電気破壊した結果、両側の場合は歌は形成されなかった。片側の場合は歌を構成しているシラブルの順序が変化した。(2)HVc核の片側を破壊してRA核まで破壊がおよぶと、歌の形態はシラブルはほとんどなくなりノートのみ残る。以上のことよりHVc核は歌を司令する司令ニューロンである。(3)ニホンウズラのヒナがdistress callを発声しているとき、テストステロンを与えると、crowingに替る。テストステロンを除去するとdistress callにもどる。テストステロンを与えて、ICO内側部を電気刺激するとcrowingを発声する。(4)ICOを電気破壊するとテステステロンを与えてもcrowingは発声しない。しかしdistress callは発声する。(5)ICO内側部の破壊後、電気刺激後、細胞外記録後、各々組織学的に調べ、distress callからcrowingに替る部位を同定した。 以上のことから地鳴きの中枢はテストステロンによって修飾され、その領域がICO内側部にあることが明らかにされた。
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