本研究は平成7年度から引き続いて、ジュウシマツとニホンウズラを材料として、歌や鳴きを音響学的に解析しながら、鳴鳥の発声系中枢への制御機能と、鳴きの発声中枢の機能について明らかにすることである。鳴鳥のHVc核、RA核は発声のための神経核で、これらの神経核が電気的に破壊されると歌を歌わない。これまでジュウシマツの成鳥は一度歌を完成させると、他の中枢からの制御を受けることなく歌を歌うといわれている。そこで、歌の完成した成鳥雄のジュウシマツの両耳の蝸牛管摘出手術を行い、音声の聴覚系受容器からの入力を遮断した。音声入力を遮断された個体の歌について調べた。蝸牛管摘出前の歌と、摘出後60日目の歌を音響学的に比較すると、歌は完全に変化することがわかった。特に摘出前の歌のシラブルで、基本周波数の高いシラブル、また周波数の変調が大きい、すなわち高い周波数から低い周波数に急激に変化するシラブルが欠落することが特徴的であった。また基本周波数が低く、周波数の変調の高低の差が小さいシラブルは、手術前と同じく手術後も残っていた。このことからジュウシマツのような鳴鳥の歌は、発声中に聴覚系からの音声フィードバックに依存するシラブルと依存しないシラブルがあることがわかった。この結果は、歌の出力系の発声中枢は、歌を歌う際に、いったん司令が出れば、他からの制御を受けることなく機能しているのではなくて、常に聴覚系のフィードバックにもとづいて機能していることを示している。 一方鳴鳥でないニホンウズラの地鳴きは発声中枢(Dorso-medial area(DMA))の働きによっている。ヒナは両耳の蝸牛管を破壊されてもdistress callを鳴き続ける。この発声中枢にテストステロンを作用させると、幼鳥特有のクロウを発声する。このことは、地鳴きの中枢が音声のフィードバックを必要としないことを示している。
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