研究概要 |
呼吸リズム形成の神経機構を明らかにするためには,ニューロンネットワーク及びそれを構成するニューロンのイオンチャネルを解析する必要がある.本研究の目的は,新生ラット摘出-脳幹脊髄標本を用いて,呼吸性ニューロンのバースト形成のイオン機構を解明することにある.これまでの結果より,延髄腹外側部の呼吸性ニューロンが,TTX存在下及びK^+チャネルブロック下で高閾値(N,Lタイプ),低閾値(Tタイプ)及び中間閾値(Pタイプ)のCa^<2+>依存性膜電位応答を示すことがわかった.本研究では,これらのCa^<2+>チャネル及びCa^<2+>依存性K^+チャネルの呼吸性ニューロンバースト形成における役割を,主にパッチクランプ法を用いて明らかにする. このため,標準潅流液下の呼吸性(特に吸息性及びPre-I)ニューロンバースト形成に対する,各種Ca^<2+>チャネルブロッカー(Co^<2+>, Cd^<2+>, nifedipine (L type), ω-conotoxin (N type), ω-agatoxin (P type) )の効果を調べ,以下の成果を得た.1)共通の効果:呼吸性ニューロンの膜の過分極,膜抵抗の減少,後過分極の抑制,シナプス活動の減少; C4/C5吸息性運動神経活動の大きさの減少または停止などであった.2)Co^<2+> (2mM), Cd^<2+>(0.1mM) :ニューロンのバースト形成及びC4/C5活動の完全な抑制(可逆的)を引き起こした.3) ω-conotoxin (1-2μM) :ニューロンバースト(特にPre-I)及びC4/C5活動の減衰を引き起こした.シナプス活動は顕著に抑制された.吸息性ニューロンにおいてwash-out時にバースト時の脱分極及びバースト後過分極が大きくなることがあった.4)ω-agatoxin (0.2-0.4μM) :呼吸リズムの抑制はω-conotoxinに比べ強い.Pre-Iニューロンのバースト時脱分極を強く減少させた.しかしシナプス活動の抑制はω-conotoxinより弱かった.4)Nifedipine (20μM) : ω-conotoxinの作用に類似していたが,効果はより弱かった. これらの結果は,Ca^<2+>チャネル(特にP及びNタイプ)が呼吸性ニューロンのバースト形成に重要であること,また,NタイプCa^<2+>チャネルはCa^<2+>依存性K^+チャネル機能を介して吸息性バーストの終了に関わることなどを示している.特に,Pre-IニューロンではPタイプCa^<2+>チャネル(デンドライトに存在する?)が,他のPre-Iニューロンからの興奮性シナプス入力による脱分極により活性化され,バーストの開始及びバースト時の脱分極を増強するように働く可能性もある.またCa^<2+>チャネル機構は,おそらく間接的に(Kコンダクタンスを調節することで)静止電位の決定にも関与することが示唆された.
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