成長抑制因子(GIF)はアルツハイマー病脳抽出液存在下で、培養ニューロンの生存と突起形成を抑制するが、単独では神経毒性はない。そこで、GIFの標的神経栄養因子をヒト脳から単離・同定するため、以下の研究計画を実施した。 神経栄養因子活性はアルツハイマー病(AD)脳でより高いため、AD脳抽出液から栄養因子活性をもつ分画を部分精製し、その中から、GIFによって活性が阻害される物質を単離する方法を選んだ。神経栄養因子活性の測定は、培養大脳皮質ニューロンを使ったbioassayにより行った。正常老人脳と比較して、AD脳抽出液中にのみ認められる神経栄養因子活性は、DEAE Sephacelに吸着しない分画とDEAEに吸着して50 mM NaClで溶出される分画に存在していた。そして、蛋白あたりの栄養因子活性は、DEAEに吸着して50 mM NaClで溶出される分画の方が高かった。そこで、この分画にある神経栄養因子を集めるため、高速精製システム(ConSep LC100)を使用して、DEAEイオン交換クロマトグラフィ(0-200 mM NaCl溶出)を行った。しかし、弱い活性がNaCl 0-100 mMと120-150mMでそれぞれbroadに溶出されるのみで、活性ピークは得られなかった。次に、0-100 mM NaClで溶出された分画から、HPLC(ゲルろ過)によって、神経栄養因子活性を精製することを試みたが、活性ピークは現れなかった。また、DEAE Sephacelに吸着しない分画からの神経栄養因子活性を、ConSep LC100によるCMイオン交換クロマトグラフィ(0-200 mM NaCl溶出)で部分精製することを試みたが、活性分画は現れなかった。これらのことから、AD脳抽出液中に認められる強い神経栄養因子活性は、いくつかの栄養因子の相乗効果であることが示唆された。また、AD脳から神経栄養因子を部分精製し、その中からGIFによって活性が阻害される物質を単離するという方法で、GIFの標的を同定するのはむずかしいこともわかった。現在、GIFに結合する蛋白の同定を免疫化学的手法を用いて試みている。
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