当初計画したように、マウス胎仔で部位特異的に発現される遺伝子のcDNAを能率的に得る方法の確立のための作業を進めた。脊髄運動ニューロンの頭尾方向の選択的神経成長に関与する遺伝子、部位特異的な発現パターンを示す新規の遺伝子を検索する目的で、胎齢13日目のマウス胎仔の第3、第4、第5腰髄前角細胞を試料としてmRNAの抽出、RT-PCRによる遺伝子の増幅、cDNAライブラリーの作成を行っている。研究目的の達成のためには、mRNAを出来るだけ多く得ること、mRNAの逆転写、PCRによる増幅の過程を、効率よくすることが重要である。良いmRNAを得るための重要な条件は、使用する細胞の状態を良好に保つことであり、このために胎仔培養の条件を最適化することを試みている。現在までに、胎仔培養の温度を、従来より高い母体内に近い温度に設定することを試み、装置の種々の改良を加えた結果、このことが可能になった。また培養液としては、ラットの血清を用いることが理想的であるが、これも様々な改良を行った結果、可能にすることができた。また胎仔培養法の改善の結果として、マウス胎仔が、これまで報告されていたよりも、早い胎齢から複雑で周期的な自発的運動を示すことが明らかになった。現在、自発運動、神経系の自発活動が、神経系を含む胎仔の発生分化、すなわちmRNAの合成に、重要に関わっていることが想定されている。したがって、今回得られた知見は、胎仔の正常は発生分化に関与する遺伝子を検出するために、胎仔の培養条件が重要であることを示しているだけでなく、実験条件の詳細な制御が可能なin vitro胎仔の系を用いて、胎仔の状態を能動的に制御し変化させることにより、胎仔の種々の体部位における遺伝子発現について、これまでにない多面的な解析が可能であることを示している。
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