妊娠後期マウス胎仔の唯一のwhole embryoインビトロシステムである経胎盤灌流法を用いて、哺乳類胎仔の神経回路形成のメカニズムについて、総合的な解析を行った。神経回路形成を支配する重要な要因であるneural activityの現れである胎仔運動について、今までにない高い客観性と定量性を持った解析を可能にするために、コンピュータによる胎仔運動の自動多点計測法を開発した。すなわち、マウス胎仔の種々の体部位を、微小金属粒子でマークし、胎仔の運動画像をビデオカメラを介してコンピューターに取り込み、輝度の高い金属粒子の座標をコンピュータプログラムで自動計算させることにより、胎仔の多数の体部位の独立した運動を、30分の1秒の時間分解能で客観的に計測することが可能になった。この方法を用いて、マウス胎仔の行動発達の過程について詳細に検討した結果、マウス胎仔において神経系の活動により生ずる自発運動が、従来考えられてきたよりも2-3日早い胎齢11-12日から出現することを、高い客観性を持って証明することができた。また胎仔の行動を、再現性の高い数種のパターンに分類できることが明らかになった。この結果は、神経系の発生の非常に早い時期から神経回路網形成に神経の活動が関与しているという新しい可能性を示唆している。また、経胎盤灌流法を用いてマウス胎仔で部位特異的に発現される遺伝子を検索する方法の確立のための作業を進めた。この目的のためには、mRNAを出来るだけ多く得ることが重要であり、そのためには、胎仔培養の条件を最適化し、使用する細胞の状態を良好に保つことが重要である。そこで胎仔培養の条件の最適化を試み、装置、培養温度、培養液等、種々の改良を加えた結果、培養条件の大幅な改善を実現することが出来た。
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