研究概要 |
高等哺乳動物の中脳にある赤核細胞は,大脳皮質と小脳の出力信号を受け四肢の運動ニューロンに出力を送って四肢の運動制御を司っているが,その回路構成からいわゆる大脳-小脳連関による高度な運動制御がこの系で起こる可能性が考えられる.2つの入力が収斂し赤核細胞することで巧みな運動制御信号を生み出すためには,2つの入力が干渉したときに特異的な何らかの可塑的変化が起こることが予想される.この可能性を調べるために,ネコの赤核細胞を用いて大脳と小脳の入力を組み合わせたときのシナプス電位の変化を細胞内誘導によって検討した. 大脳-赤核線維のテタヌス刺激(50Hz,10発,3秒毎に3分間)を与えると,赤核細胞で記録される大脳皮質由来の興奮性シナプス後電位(EPSP)は一過性に増大した(8例中7例).全例で変化は刺激開始から10分以内に元に戻るテタヌス後増強であった.しかし,赤核細胞に脱分極電流パルス(1nA,300ミリ秒)を注入しながら大脳-赤核線維のテタヌス刺激を与えると,大脳性EPSPは10分以上増強した(4例中3例).このとき小脳性EPSPには変化がないので,増強は大脳-赤核シナプスに特異的に発現する考えられる.更に,大脳-赤核線維と小脳-赤核線維のテタヌス刺激を組み合わせて与えると,大脳性EPSPが50分以上も増強する長期増強が発現した(2例中2例).この場合も小脳性EPSPに変化は見られなかった.これらの結果は,赤核への大脳皮質と小脳核からの出力信号が収斂することによって,大脳-赤核シナプスの伝達効率が可塑的に変化することを示唆している.来年度は,現在入手の難しいネコに替えてモルモットを用いて以上の結果を確認し,更に長期増強の誘導のメカニズムを探っていく予定である.
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